ソーイヤーの断酒日記

30歳から始めた晩酌習慣を止めると、人生は変わるのか? 実験の記録。

YouTube「山田五郎オトナの教養講座」~アンリ・ルソーについて~

 YouTubeの「山田五郎オトナの教養講座」が面白い。

 有名絵画を見た素人が素朴に思った疑問点を山田五郎にぶつけ、その謎解きを山田五郎が行っていくというシンプルな構成の動画である。

 動画に登場するのは、山田とあとはほとんど声のみの出演者の男女が二人。場所はおそらくは山田のアトリエの、ような雰囲気を漂わせている部屋の一角。山田の趣味?を思わせる骸骨を手にした少女のヌードがちょっと不気味。

 

 「この絵画のこの部分が謎」と、質問者は山田に絵画のコピーを手渡す。この時にチラリと質問者の手や後姿が見える。山田五郎は手渡された作品を観ながら、おもむろにその質問者が感じた疑問の謎をゆっくりと解説しながら解いていくのである。たぶん事前準備はなされ編集されて、即答しているという構成にしているのだろう。

 時間をかけて調べているのかもしれないが、それにしても講義を聴いていると、山田五郎の絵画作品への理解の深さとその圧倒的な博識ぶりに驚かされる。

  

 ほぼ声のみの登場者の一人、質問者の「和田さん」という二十代の女性が、絵画の知識教養がゼロに近い方で、私たち、一般ピープルと同じレベルかそれ以下。山田五郎の解説もその方のレベルに合わせたものなので非常に丁寧で、かつわかりやすい。

 和田さんは「宗教画でマリア様が抱っこしている子どもは誰か?」という講義の最中の山田の質問に「わからないからヒントをください」というレベルで我々一般ピープル代表としてもかなり頼もしいくらいの無教養ぶりを発揮する。「頭文字がイだよ」というヒントに「イデア!」とに答える和田さんの馬鹿っぷりに山田も私たちも呆れるを通り越して愛おしささえ感じる。

 和田さんの受け答えにはわざとらしさやあざとさが微塵もない。(最近は自分のキャラがわかってきて、若干ウケねらい?)そう天然なのだ。だから二人のやり取りにニタニタしてしまう。

 今までに10本ほどの動画を観た。誰でも知っているゴッホの絵画の解説から始まり、ドラクロワ、レオナルド・ダヴィンチ、モネ、ヒエロニムス・ボス、一昨日からはアンリ・ルソーの絵の解説を立て続けに観ている。ルソーシリーズは4本ある。

 このルソーがまたド天然で愛おしいのである。(ちなみこのルソーシリーズの際には和田さんは体調不良で出演してはいなかった。)

 ルソーの絵は、高校の美術の教科書には必ず載っているので有名である。もしかしたら中学校の教科書にも載っていたかも。だからひどく馴染みはあったけれども、美術の歴史からするとかなり異端の画家であったことがわかり、とても興味深かった。というかもう声を出して笑えるくらいの笑える面白さだった。

  ルソーは独学の画家で正規の美術教育を受けていなかった。それだけでもかなり異端だという。まずは教育を受けて基礎の基礎を身につけている画家がほとんどだったそう。ルソーはだから写実的な絵が描けない。努力したふしもあり、その絵も残されてはいたけれども、誰もが一目見て、下手だとわかるくらいのへたくそさ加減なのである。

 肖像画なんて似ても似つかない代物で、人間の顔も正面ばかりを向いていて大人も子どもも同じ顔である。子どもなんて、愛らしさのかけらもない。だって大人の顔だから(笑)「髪型と服だけが違っていて、登場人物みんな同じ顔の下手な漫画家と一緒」みたいなことを山田が話していたけれど、まさしくそうそう!(笑)

 そして遠近法も身につかなかった。遠近感が壊滅的。めちゃくちゃなのである。だから平面的な絵しか描けなかった。人間の体のバランスもめちゃくちゃだし、立ち姿さえ描けていない。浮いたようになるので足を草かなんかで隠してごまかす始末。ジャングルにいる動物もライオンなのか犬なのか正体不明の見たこともない生き物だったりする。

 なのにルソーの絵もルソーの名も知る人は多い。美術史に燦然と名を残している。

 絵画展に出しても落選で、誰でも応募すれば作品が展示される「アンデパンダン展」に出品し続けて、新聞にとりあげられるほど笑いものにされても意に介せず、そうした作風がピカソという超絶うまくて有名な画家に「真似できない」と評価されるほどになり、リスペクトされるのである。

 「アンリ・ルソー」はヘタクソなのに後世に残る画家として、名声を確立してしまった。

 写実がうまい画家はたくさんいるのだけれど、ルソーのように子どもが無邪気に描いたような作風はルソー独自のもので本当に誰にも真似できないものなのだろう。

 ただ、葉っぱを丁寧に描く技術や色彩感覚の見事さ、じっと見入ってしまうユニークさが魅力でなんとも言えない味わいがあり、心に残るのだろうね。一度見たら忘れられないものね、ルソーの絵って。現実から飛び出した異空間で無邪気に魂が遊んでいるようで、観ているとなんだか幸福な気持ちになってくる。重苦しさとは無縁な絵が多い。

 山田五郎の解説の言葉選びも笑わせる要素が大きい。そして作家に対する愛が溢れていて、聞き心地がいい。笑って笑って、私もルソーへの愛が深まった。

 実は山田五郎って何ものか、よく知らない。

 

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